第56回「住田海事賞三賞」が決定
2024.12.2
「内航海運」と「移民船」を掘り下げた各研究書が選ばれる
一般社団法人日本海運集会所
住田海事奨励賞管理委員会
第56回「住田海事賞三賞」が11月27日に決定しました。この賞は、海事全般に関する専門図書を表彰する「住田海事奨励賞」、海事史に関する専門図書を対象とする「住田海事史奨励賞」、舶用・造船関係および広く海事技術に関わる専門図書または論文から選ばれる「住田海事技術奨励賞」で構成されています。
日本海運集会所に設けた住田海事奨励賞管理委員会で各賞の候補作を検討した結果、「住田海事奨励賞」に「日本の内航海運の研究」(松尾俊彦 著)が、「住田海事史奨励賞」に「移民船から世界をみる 航路体験をめぐる日本近代史」(根川幸男 著)が選ばれました。なお「住田海事技術奨励賞」の該当作はありませんでした。
11月18日に「住田海事奨励賞」、同25日に「住田海事史奨励賞」の授賞式を日本海運集会所でそれぞれ執り行い、受賞した松尾俊彦氏と根川幸男氏に賞状と賞金が授与されました。
住田海事賞は、海運、造船事業に長く従事する傍ら、海事資料の刊行や廻船式目の研究などを通じて海事文化の発展に広く寄与した故・住田正一氏の功績を記念して創設されました。ご子息の住田正二氏(元運輸事務次官、元JR 東日本相談役)が1969 年に「住田海事奨励賞」を創設し、2002 年に「住田海事史奨励賞」が、08 年に「住田海事技術奨励賞」が設けられました。
【海事奨励賞】
松尾 俊彦 著
「日本の内航海運の研究」
本書は、日本の内航海運の歴史的経緯を踏まえながら、内航海運が抱える課題を整理するとともに、船員問題や市場・構造問題などを検討し、課題解決策を提案している。著者が過去に発表した学術論文を中心に全11章で構成されており、約10年間にわたる著者の内航海運研究の集大成となっている。船員不足や採用・離退職の問題、業界自身が取り組んだ事業、国が示した内航海運政策、船舶管理会社の活用、船員の働き方改革などについて多角的に論じられている点が興味深い。
従来、外航海運が研究対象になることが多かった「海運論」において、内航海運のこれまでと現状を総括的に把握し、また各課題に対する提言を示した点が有益であると高く評価された。
体裁:A5判/208頁
定価:3,850円(税込)
発行:株式会社晃洋書房
松尾 俊彦氏 プロフィール
1976年広島商船高等専門学校航海学科卒業、80年東京商船大学商船学部航海学科卒業、2002年東京商船大学大学院商船学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。現在、大阪商業大学総合経営学部教授。
【海事史奨励賞】
根川 幸男 著
「移民船から世界をみる 航路体験をめぐる日本近代史」
本書は、明治政府の移民政策導入に伴い、明治維新から100年あまり続いた日本人の移民船に関する研究書である。航海日記や船内新聞、写真、移民原簿など多くの資料を用いて、移民船研究の重要性と主な課題、その可能性を展望するなど日本近代史に新たな光を当てている。
著者の根川幸男氏によれば、ブラジル行きの移民船だけでも1908~73年までの65年間で延べ640隻、約24万人の日本人が渡航したという。本書では先行文献のみならず、当時の移民自らが書いた日記など一次資料を重視しながら、移民船をめぐる歴史を学術的な視点・手法で深掘りしている。
海の上の移民船で生活している人の視点に立って日本近代史を取り上げ、読者に新たな知見を与えている点が高く評価され、海事史奨励賞の授賞に至った。
体裁:四六判/308頁
定価:4,180円(税込)
発行:法政大学出版局
根川 幸男氏 プロフィール
サンパウロ大学哲学・文学・人間科学部大学院修士課程修了。博士(学術:総合研究大学院大学)。専門は移植民史。ブラジリア大学文学部准教授を経て、現在、国際日本文化研究センター特定研究員。
※著者の経歴は各書から抜粋しています。
【本件に関するお問い合せ先】
一般社団法人日本海運集会所 海事情報事業グループ
TEL:03-5802-8365
FAX:03-5802-8371
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